僕がオタク街コンに行った話 その1
そろそろ参加者の記憶から風化してきてる頃だと思うので語ってみようかと思う。
2015年某日、曇天の空の下オレは国際展示場前に居た。
会社をサボり始めたオレは暇を持て余していたので以前友人と一緒に行ったことがある街コンに行ってみようと思ったのだ。
ちなみにその街コンでは壺を売りつけられそうになったのは記憶に新しい。
閑話休題。
今回の街コンは一人で参加することにした。理由は暇だったからだ文句あるか。
最近のオタクはかわいい子やイケメンが多いので服装ぐらいはちゃんとしておこうと、この日の為に一応見れるぐらいに髪は整えて新しい服も見繕ってみた(一万ぐらいのジャケット買った)。
気合を入れ街コンの集合時間20分ほど前になって駅に到着したオレはビックサイトで行われていたイベントの帰りのオタクたちの並を掻き分け、目的のビルへと向かう。
なんでも今回の街コンはイベントとタイアップしているらしいので、ライトオタクからガチオタまで網羅しているとのこと。
ライト層ならけっこうかわいい子とかもいるんじゃないのかなぁと淡い期待を抱いて同じ場所に向かうであろうパンクスを着込んだデデンネ似の男性の後ろに着いていく。
↑がデデンネ。
馬子にも衣装とはこのことだなって。
街コンの開催場所は妙に尖ったビルで、ご丁寧に入り口には受付もありそこでコスプレをしたお姉さんから軽い説明を受けたオレは最初の店に入った。
最初の店は何故か蕎麦屋だった。
緊張でガッチガチに固まったスタッフのお兄さんに案内され、通されたのは座敷席だ。
靴を脱いで暖簾の先に待つのは鬼か蛇か。意を決して暖簾を開けると、そこは言葉通りの魔境だった。概念で言うなら混沌。
一応挨拶しながら暖簾を開けたのだが、スペースには2つの掘りごたつ席があった。向かって左が一人分開いていたのでそこに腰掛ける。
右のテーブルに座っていたのは東南アジアと一反木綿だったのですぐに興味は失せた。別テーブルに話しかけるのはご法度だしね。
「今日はよろしくお願いしまーす」
極めて明るい声色で、再度テーブルについているオレ以外の三人に挨拶をする。
目の前に座っていたのはバラモスだった。そうそうDQ3のあいつ。アレ。
バラモスは弄っていたスマホを置き、ほんの一瞬値踏みするような視線でオレの事を舐めまわしてから「よろしくお願いします」と挨拶を返した。左前はキャラが薄かったので本気で何も覚えていない。
↑がバラモス。画像検索してたらマジで似てて笑った。
さて、街コンというのは基本的に男女とも二人一組だというのはご存知だろうか。
ソロ参加はあまり推奨されておらず、最悪の場合2:2の比率を崩して卓を泥沼に引きずり込む悪魔の役割を押し付けられることもあるという。
今回の街コンでは男女ともに満員だった為、そのような悲劇は回避できたのだが、オレの中にあったもう一つの懸念は事実となりオレに襲いかかった。
オレとペアを組むソロ参加の男、そいつの顔が完全に岩タイプだったのだ。
しかもチェックシャツにウォッシュジーンズだった。クリーム色のチェックシャツはどこで買ったのだろうと現実逃避しそうになったが、これから数時間嫌でもペアを組まさざるを得ない相手だ。
もし粗相してこちらの行動を制限されてはたまったものではないと極めて和やかに話しかけることにした。
↑がもっと色あせてくたびれたシャツだった。
幸い街コン名物自己紹介シート(詳細はググって)がテーブルに置いてあったのでそれの記入要項の一つ、『好きなアニメソングベスト3☆』について隣のイシツブテに話題を振った。
「これって何書きました? けっこう悩みますよね」
「あっwwwww僕が書いてるやつマイナーだから見てもわかんないよwwww」
なんか知らんがナメられてた。
ちなみにイシツブテがBest1に上げていたのは当時放送中だった東京喰霊√AのEDであるamazarashiの『季節は次々死んでいく』でどメジャーだった。それはもう浅かった。
一発ぶん殴ってやろうかとも思ったが一応参考にさせてもらった手前、あの曲かっこいいですよねーとか適当な事を言いつつアイドルマスターシンデレラガールズのOPタイトルを書き込み、『好きなアニメランキングベスト3♪』にアイドルマスターシンデレラガールズと速攻で記入した。
それを見たイシツブテは
「顔に似合わないねwwwwwwww」
と追い打ちをかけるように煽ってきたのでこいつの存在は抹消することにした。
その後もイシツブテと中身のない会話をしていると、先程のガッチガチのスタッフさんが登場手には街コンのルールが書かれたホワイトボードを持っていた。
そして噛みまくりの超小声な説明が始まる。ペアで動けとか悪質な参加者はつまみ出すよとか、まあ普通の内容。
最後にスタッフの不慣れな乾杯でオレの街コンが幕を開けた。
ビールをおいしく頂いているほんの数瞬で作戦を固めることにした。イシツブテはタンク役でヘイトを集めてもらうのは確定として、結局このテーブルでは位置関係上正面のバラモスを相手取らざるを得ないのは明白である。
バラモスには微塵も興味がなかったのだが凍てつく波動を使われては叶わないので極めて紳士的な対応を心がけることとしよう。最初の30分は席を動けないのでそれまでの辛抱だと己に言い聞かせる。
とりあえず腹が減っていたのでセルフ形式の食事を取りにイシツブテを引き連れ一度席から離れる。その時にイシツブテに「どうっすか?」と聞いたら「いやアレは、うん」みたいなことをほざいてた。鏡見ろ。
料理を見繕って席に戻り、お互いの距離を近づけるために基本のどこ住み? から先手を仕掛け、脳みそを1ミリも使わない会話で場を盛り上げる。
我ながら上っ面だけの会話は非常に得意なので思いついた話題をバンバン提供し、相手からの話題も拾って発展させる。幸い口数が多い相手ではなかったので終始ペースを握ることには成功した。
だが問題は起こるべくして起きたのだった。
「どんなアニメとか見てるの?」
「あー、えっとねぇ」
「……?」
何気ない質問だったのだが、バラモスはまるで呪文を詠唱するかのようにバッサバサの髪をくるくる指に巻きつけて困り顔だった。はっ倒すぞ。
バラモスはしばし悩んだ後、口を開いた。
「私あんまりアニメとか見ないんだよね」
心が折れそうだった。
なーにが「私あんまりアニメとか見ないんだよね」だよDQ3の世界にでも引きこもってろゾーマの前座が!
あまりの理不尽な仕打ちに的確な罵倒が口から出そうになるのを必死にこらえた。落ち着けオレ。あんまり見ないと言っているではないか。きっと何かしら見ているに違いない。ああでももしかしたら本当に見てないのかもしれない。
気が付くとあと5分で退出できるじゃないか。話を合わせて速攻逃げよう。
「そ、そうなんだ。じゃあ休日とかなにしてるの?」
「んー、ゲームとかやってる。ゲーオタなんだよね」
はい来た。
ゲーム(笑)でしょどうせはいはい知ってる知ってる。パズドラとかモンストでしょどうせ? もうお前の言葉自体がいてつく波動だよホントに、マホトーン使わせろ!
「へーそうなんだ。じゃあ今何やってるの?」
パズドラはやってないがモンストは一時期やっていたのである程度話は合わせられるだろう。リセマラすらやっていないカス垢だったがそれなりに情報も仕入れてたし遅れはとらないさ。
最早オレは何も彼女に期待していなかった。彼女じゃないバラモス。
バラモスはゲームについて突っ込んだ質問をもらったのが嬉しかったのか、先程までの声色よりも少しだけトーンが高くなった声で、バラモスはこう答えた。
「ガンダムブレイカー2」
「あれめっちゃ面白いよね!」
バラモスはただで転ばなかった。
結局席を離れるまでオレはバラモスと延々ガンダムブレイカー2の話題で盛り上がったのだった。ちなみにバラモスはけっこうなガチ勢で今までの25分よりも最後の5分のほうが盛り上がったのは言うまでもない。
スタッフが移動可能だと告げる声が後ろから聞こえてきた。話が合ったところで全く未練は残っていなかったので速攻で席を立ち、別の獲物を求めに彷徨うことにした。これはイシツブテと料理を取りに行った時に打ち合わせ済みだ。
「じゃあオレたち移動するから」
「あ、そう? 私たちも移動しようかな」
嫌な予感がしたので店を出たところで「じゃあオレたちは中華料理屋行くから」と明確な拒絶の意思を示してご退散いただいた。マホトーンってこうやって使うのかな。
ちなみにバラモスともう一人とはLINEの交換はしませんでした。当然だよなぁ?
つづく