のりさんのブログ

日本語不自由

僕が虫を食った話

きっかけは知り合いの漫画家と酒を飲んでいた時だった。

「最近漫画のネタないんだよね」

「そうなんっすか」

オッサンの日常に何を期待しているんだって怒っていたが正直面白この人の書くエッセイ漫画は面白いので毎月楽しみにしていたのだ。

しかも時々こうして一緒に酒を飲んでもらい面白い話も聞かせてもらっている。どこかでお返しができればいいなぁと思っていた矢先の出来事だった。

俺には一つ、漫画のネタになるであろう虎の子を持っていることを思い出し、いつもの調子で切り出す。

「実は面白いネタが一つあるんですけど……」

 

というわけでそこから一ヶ月ほど時間は飛んで1月の神奈川某所。

とある店に我々は足を踏み入れていた。別にステマとかじゃないので店名も店の写真もあげないが、とにかく珍味が食える店だ。

ウーパールーパーとかグソクムシとか食えるとネットで見たのが最初だったはず。

漫画のネタ提供とは言っているが、実際のところゲテモノ料理ってどんな味がするのだろうとちょっと気になっていたのでいい機会だと提案したのだが意外とあっさりOKが出たのでちょっとだけ拍子抜けしたのを覚えている。

いざ実際に店内へ足を踏み入れると、店内には多くの地酒が置いてあり、雰囲気もちょっと小洒落た居酒屋と言った感じでとても好印象だった。だけどドアを開けた瞬間に嗅いだことのない肉の臭いがした。熊を筆頭に色々な肉を置いているのできっと獣の臭いなのだろうが最後まで謎だった。

とりあえずビールを注文し、ネタ作りということもあって字面のインパクト勝負に出ることにした。グソクムシ、ウーパールーパー、タガメコガネムシ、蛾の幼虫等々、ほんとに字面すげぇな。

全体的に言えることだったが、虫は味がしない。

例えるなら素揚げされたエビの殻を5匹分口の中に突っ込まれたような、香ばしいけど全く食いでもなければ味もしない物体だった。その中で唯一コガネムシだけは二度と食いたくないレベルの味付けで本当に辛かった。

ウーパールーパーはメザシみたいで美味しかったけどそれだけ。

そしていい加減食傷気味になってきた頃にメインディッシュが登場した。アナグマ鍋である。

アナグマとは簡単に言うとイタチの仲間で、イタチの肉はアンモニア臭がとんでもないらしい。果たしてどういう調理法で出てくるのか個人的に一番楽しみにしていたのだが、俺は目の前に置かれた鍋の中身を見て愕然とすることになる。

「ブルーチーズ鍋でございます」

店員が蓋を開けた瞬間、店内に広がるゲロそのものの悪臭。スープに溶かされて完全に馴染んでおらず分離しているチーズ分は余計にゲロを想起させる見た目で食欲なんて全く起きたもんじゃない。

恐る恐るアナグマの肉を口に含むと、ゲロの奔流の中に確かな噛みごたえの獣臭い肉があり、ゼラチン質な噛みごたえは確かに食べたことのない珍味と言える味であった。ただ口当たりと後味が壊滅的にゲロ。っていうかブルーチーズ鍋じゃなくてゲロ鍋だった。

眉間に皺を寄せつつも、野菜をしゃぶしゃぶし勢いに任せてなんとか飲み込んでいく。だが、タガメですら躊躇なく口にしていた漫画家さんは完全に沈黙していた。

「ごめん坂本君……俺ブルーチーズダメだわ」

「!?」

そこからはまだ半分以上残っていたのに全部一人で喰う羽目になった。最後に飲んだウーロンハイは人生において今まで飲んだ中で一番美味しかった。

その後は体力を消耗+ふたりとも謎の腹痛に襲われたので入店してから一時間で退散することとなってしまった。本当ならばバッファローステーキとかも食いたかったのだがとにかく気持ち悪かった。ちなみに一人12000円だったので真顔になったのは言うまでもない。

 

よい子の皆はネタづくりとしては行ってもいいかもしれないけれど、お金と体調に余裕がある時にしようね!